歩いても、歩いても、行きたい場所

子どものころ、よく家族で京都に遊びに行っていました。子どもの私にとって京都はお寺ばっかりで、さしておもしろくありません。
父はやたら歩き回る人で、金閣寺へ行ったかと思うと、今度は銀閣寺だと飛び回る人なのです。

暑くて、歩きづめで疲れて、もううんざりというのが私の偽らざる気持ちでした。
そんな私たち子どもを父は、銀閣寺を見終わると決まって連れて行ってくれるところがありました。
細い路地をいくつも抜けたところに、ひっそりとたたずむ一軒のお茶屋さんです。そこの店にあるのは、ぜんざいだけ。

でもくたくたになった私には、その冷たく冷えた甘いぜんざいが何よりもおいしかったのです。
竹林を吹き抜ける風が、歩いてきて汗びっしょりになった私の背中を涼しませてくれました。
毎年のように訪れていたので、お店のおばあちゃんが私たちのことをよく覚えてくれていて、
「もうこんなにおおきくなったんだね」と声をかけてくださるのも、嬉しかった思い出です。